以下の本を読んだので感想を書きます。
- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/08/01
- メディア: 文庫
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旧日本軍の行動原理
この本の中では戦闘に入るまでと戦闘の経過について、旧日本軍とアメリカ軍の首脳部における組織としての思考と行動が考察されています。中でも特に気になったのは、アメリカ軍に対する旧日本軍首脳部の論理的思考の欠如です。
帰納と演繹
本文中では旧日本軍側の考え方は帰納的、アメリカ軍側の考え方は演繹的であると分析されていました。帰納的とは経験を次の作戦にも当てはめる考え方、演繹的とは『何をどのようにどうするか』という公式を先に作り、その公式に当てはめて作戦を立てる考え方だと理解しています。
両者の根本的な違いは、大規模な修正を加えることができるか否かです。以前の経験のみを作戦に反映する帰納的な方法では、技術の進歩が急激である場合経験の共有と戦略の転換が戦場に追いつかなくなる一方、公式を立てるやり方では公式の修正と共有を徹底しさえすれば公式どおりの結果を期待することができます。
経験に学ぶだけでは何をどのように修正すればよいかが不明確になりやすい一方、公式を立てるやり方では公式が明確であり、修正しなければならない点が明確になりやすいという利点もあります。
曖昧さが精神論を呼び込む
修正しなければならない内容が曖昧であるということは、次の手を効果的に打つことが不可能であると言っても過言ではないでしょう。特に大きな自負心を持つ人間が明確な基準なく自分や他人を否定することは難しいもので、実際旧日本軍の首脳部は効果的に自己を否定することができていなかったと考察されています。
特に自分は、旧日本軍の首脳部に属する人間はその場で自分も他人も否定しない方法として精神力の不足を叫んでいた面があるのではないかと強く感じました。責任者不在の状況はこのように発生するのでしょう。
一度おかしな方向へ転がり始めると、修正できない組織では加速度的に状況を悪化させていくものです。旧日本軍は特攻の繰り返しへ至り、自分も精神論を叫んで具体的な対策が何一つできていない状況へ至った経験があります。
修正できない体質と、それでも何かしらの結論は出さなければいけないという非合理な状況こそが、論理的思考の欠如の原因なのでしょう。
修正できない組織と現在の日本
本文では最後に執筆現在の日本に対して当てはめた考察がされていました。その中では残念ながら旧日本軍首脳部の悪癖を日本の経営陣は引きずっているという旨が書かれていましたが、今現在でもまったく改善された様子は無いと自分は感じています。
曖昧な目標しか持たず、意思決定を空気感に任せ責任を曖昧にし、変化に対応することができない。日本中どこを見渡してもそんなものばかりです。
何よりこの的確に感じられる分析が1984年には既にされていたということを知った時は軽く絶望できました。
まとめ
他人のことはとりあえず横に置き、自分にとって特に重要に感じられた学びは以下の4点です。
- 大きな組織ほど合理性を求めなければ統一した判断と行動ができない
- 合理性を確保し続けるためには目標とそれに伴う責任を全て明確にし続ける必要がある
- 自己否定など場をかき混ぜる人間の居ない組織は老化し合理性を確保できなくなる
- 合理性は様々な物事に対する演繹的な理解から生じるものである