読書感想「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」

 こちらの本を読んだので、感想を書きます。

最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか

最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか

 

 有能な人が無能者になる瞬間

 普段から物知りなのに、ある知識について勘違いしていたり、緻密に計画を立てたのに、ほんの少しの勘違いから計画を台無しにしてしまったり、それまでは有能だった人間が、一瞬無能となってしまうシーンを、自分は日常の中で多々見かけます。

 

 これが内輪の話であれば、その失敗は笑い話になったり、あるいは記憶にも残らずに忘れ去られ、その人の評価は"有能な人"のままです。 しかし、これが外部を巻き込む話であれば、その規模が大きければ大きいほど、どれだけの能力を持った人間であっても、一瞬の無能が一生のレッテルへと変じます。

 

 自分はこの本を読んで、その一瞬の無能こそが最悪の事故を引き起こす原因だという事実と、 同時に、その一瞬から一個人が逃れることの難しさを感じました。

どれほど低い確率でも、0でないならそれは起きるということ

 この本では、様々な事故の発生するまでの過程が描かれますが、その中に共通しているのは、そこに『誰かを害してやろう』だとか『誰かを不幸にしてやろう』なんていう悪意は一切無く、ただ大勢の人間の「無知・無能・無関心」が積み重なっていく様子しか無いという点です。

 

「無知・無能・無関心」は、たった一つでもシステムを壊滅させ、破壊をまき散らす可能性を持っているものです。 それが沢山集まったなら、例えどれだけシステムが危険性を排除したとしても、可能性は0ではなくなり、そしていつかコトが起きてしまう――その過程が、この本では余すところなく描写されています。

 

 本文中で語られる、「現在の機械やシステムというものは複雑で巨大なものとなり、その管理のためには一個人ではどうしようもない程の知識と能力、そして危機への警戒心が必要となっている」、という筆者の主張に、自分は強く同意します。

個人が努力し、それでも無知のは当たり前、問題はその更に先

 自分は、重大な事故の後で現場の人間を責める人間も多々見かけます。 しかし、自分はこの本を読む前から、この主張は大部分が間違ったものであると感じていました。

 少なくともある個人の取った行動が訓練の通り、もしくは訓練されたものでなかったとするなら、それによる事象に対する責任は、個人の教育に責任を持つ組織に帰せられるべきものであり、またそれに関わった個人が専門家として十分な知識を持っていたという実例は多くあるからです。

 

 

 この本を読んで気付いたことは、このような状況が生まれる背景には、「とてもよく訓練された個人の集団というだけでは管理できない物が数えきれないほどにある」という事実と、「その事実に気付き、危機感を持ち、本気で改善しようと考えられる人間は思ったよりも少ない」という事実があるということです。

 そして、例えそれらの事実に気付いていたとしても、可能性が0でないのなら、自分もまたいつか『無能者』になりかねない事実についても気付かされました。

 

 この本を読んだ感想として、また自分の意見として、「重要なのは問題を未然に防ぎ、それを評価するシステムだ」ということを強く感じています。前述の通り、既に今世の中にある物の多くは、「とてもよく訓練された個人の集団というだけでは管理できないもの」だからです。

「優秀な副操縦士

 この本の中では、パイロットの人的過失による航空事故において、副操縦士が果たす役割について触れている項目があります。 それによると、重大な事故においては、運航に遅れがあり、機長が操縦していて、経験の浅い副操縦士が機長のミスを指摘できないでいた、という状況が余りにも多いということでした。

 これは機長や副操縦士が無能だったという話ではなく、機長が気付かない部分を副機長が気付いたか、気付いたとして、修正に移ることができたのか、という話です。

 

 この本の中ではこの事実を基に、「ズケズケとものを言う腕利きの副操縦士」が事故防止には重要だという主張が登場しますが、これこそが危機管理とそれに関するシステム構築の最大の課題だと自分は感じました。

「ズケズケとものを言う腕利きの副操縦士」には、危機を察知できるだけの注意力と、危機と対策を判断できるだけの知識と、自分よりも知識があるであろう人間に、その場で先んじるだけの行動力が必要になります。

 

 自分は、危機管理のシステムにおいて最後に重要となるのは、「権威に対しても屈せずに危険を指摘する人間」だと、この本を読んで感じました。

 この本の中では、洗練された危機管理のシステムがありながら、それを権威が無視させた結果としての大惨事も多く紹介されます。 そしてその権威とは、例えば年齢であり、利益であり、日程でありました。 つまり、上は権威を振りかざさず、下は権威に逆らってでも行動できる風土こそが、事故の予防には必要なのだろうと、自分は感じます。

自分は「優秀な副操縦士」で在れるだろうか

 自分はまだ大学生で、決定的な判断に関わる機会は少ないです。 しかし、実際に他人の『一瞬の無能』に立ち会う瞬間は多くありますし、勉強した内容から、ある分野で年長者よりも知識を持っているという場合も増えてきました。 自分がこれから進む道においては、危機管理を意識したシステムの下で過ごすことができる確率は恐らく低いのだろうとも思っています。

 個人としても、やはり知らない事があり、それが全く無関係の第三者を害することがあるということも自覚しつつあります。

 

 そしてこの本は、そんな未熟な個人である自分が、いざという時に「優秀な副操縦士」であることを求められうるということを考える良い機会になりました。 色々と見逃しがちでしたが、もっと意識してやっていきたいと感じます。

 

「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか」は、ここに書いたこと以外にも、多くのタメになる知識が載っている、お勧めの一冊です。

最後に

 個人的には、航空機事故について扱った、「メーデー!」シリーズがとても参考になると思います。

様々な刺激があるので、ニコニコ動画で見るともっと参考になるかなと思います(ボソッ

第1話「タン航空3054便」