【読書感想】悪いヤツほど出世する

悪いヤツほど出世する (日経ビジネス人文庫)

悪いヤツほど出世する (日経ビジネス人文庫)

 

 リーダー教育の間違いを学べる本

この本を読んで、とにかく現在の人々のリーダー観やリーダー教育は矛盾や非合理さを抱えていて、だからこそ不幸になる部下が量産されるという構造を感じました。

「人々の想像するリーダーとは、誠実で、思いやりに溢れ、自己の利益より大切なものを知っているような存在だが、現実にはそのようなリーダーは少なく、それどころかリーダーの大半の正確は真逆である」という現実について理屈立てて説明していくのが、読んでいてとても面白かったです。

リーダー教育の正解についてはあまり強く触れられていませんでしたが、無理に正解を提示しようとするのではなく、「こういう構造があるからこういう結果が生まれるんだ」ということを丁寧に説明しようとする姿勢が好印象でした。

以下、読んでいて感じたことを纏めます。

科学以外人を幸せにしない

「人々の想像するリーダーとは感動的なもので、リーダー教育も感動的なものであるべきだと考えがちで、実際のリーダー教育も感動的である場合が多い。しかしそのようなリーダー教育は科学には根ざしておらず、なんら具体的な成果を発揮できていない」という主張については非常に納得が有りました。自分もリーダーについての本を何冊か読んだ経験が有りますが、そこには感動的なリーダー像はあっても現実のリーダー像とはかけ離れたものしか描かれていなかったです。

この科学的じゃない方法で教育を行おうという姿勢はスポーツの体罰の問題などと似通っているなとも感じました。何にせよ、結局科学以外が人の大局的な幸せに貢献することはない、という確信をより強くできました。

リーダー教育やリーダーの評価にこそまず科学的なメスを入れるべきだと思いますが、それは中々実現されないものですね……。

誠実さが出世の役に立つとは限らない

嘘の裏には、自己保身のように矮小な理由だけでなく、組織内競争や企業間競争、信じたいことを信じたがる人の本能など、止むを得ない事情が有るということを知ることができました。

「リーダーは嘘を吐くし、それで誰かに損害を与えても許される」、つまり万人にとっての小事は(例え実際は小事でなかったとしても!)小事として扱うことで信用を保てるという内容は、納得と衝撃を強く感じました。

ただ、そのことが残念だとも思いました。自己保身のためであれ、会社を競争に勝たせるためであれ、嘘は必ず必要になってしまうのだということを感じました。

経営者への法規制はできないものだろうか?

個人的に強く感じたことは、現在の(特に大企業の)経営者はもう少し報酬の貰い方などを規制されるべきではないか、ということです。

データとしてCEOが受け取る報酬の増え方が大きすぎることは言われていますが、この本を読むと更に「自分の能力を印象によって大きく見せるだけで金をせしめている。これは詐欺師とどう違うのか?」という印象が強くなりました。労働者については能力を明確化しようとするのに、経営者の能力については可視化を避けようとしている*1辺りが納得いきません。

企業のトップが貰う金額はその企業に関わる人間の最低賃金のn倍まで、と規制するのはどうでしょうか。上手くいくとは思えませんが*2*3、そっちの方が健全な社会だと思います。

まとめ

どんな感想を抱くにせよ、現実を考えるという意味では一度読んでおいて損は無い本だと感じました。

*1:少なくとも、立派な企業理念を掲げる企業は多いのに、経営者の能力の可視化を行おうという自発的な動きは小さいと思います。

*2:労働者から搾取する仕組みを作る所が後を絶たないことになるでしょう。分かります。

*3:このような規制はそもそも議論の発生すら封じられるだろうとも思います。